廃プラを燃料にリサイクルし、循環経済を構築!!

株式会社グーン(横浜市金沢区)

1 事業概要

廃プラスチックのリサイクル事業

2 国・地域(都市等)

フィリピン(セブ都市圏)

3 SDGsへの貢献

4 事業化の道のりと実績

(1)現地課題と進出経緯

セブ都市圏において、廃プラスチックの処理は大きな都市課題になっています。人口増加や経済発展にともなって急増しているごみ排出量に対して、持続的に回収や処理をする仕組みがありません。このため、最終処分場では廃プラスチックを含むごみが山積みとなっており、最終処分場の容量は慢性的に不足しています。また、投棄された廃プラスチックが排水溝に詰まることで、雨が降るたびにセブ都市圏のいたるところで洪水や浸水被害が発生しています。

横浜市金沢区の株式会社グーン(以下、グーン)は、2012年に横浜市Y-PORT事業による現地合同調査に参加し、現地の廃棄物処理に関する都市課題を知りました。この合同調査が同社がリサイクル技術をセブ都市圏に導入する道を模索するきっかけになりました。

(2)JICA案件化調査(埋立て処分場及びゴミ組成に関する調査)

グーンは、2012年にJICAの公募事業に申請し、JICA中小企業海外展開支援事業(案件化調査)に着手し、セブ市を対象にした調査を行いました。この調査によって明らかになったことの一つが、セブ市で排出される廃棄物の組成割合です。廃プラスチックは、有機系廃棄物に次いで高い割合で排出されていることが判明しました。同社は、案件化調査を通じて、廃プラスチックからフラフ燃料(ボイラー施設等で石炭の代替となるプラスチック製燃料)を製造し、現地のセメント会社に売却することで、循環型経済を構築するという事業企画を立案しました。

セブ市で排出されているごみの組成(出展:2012年JICA中小企業海外展開支援事業)

(3)JICA普及・実証事業(パイロットプラントによるフラフ燃料製造の実証)

セブ市の最終処分場に設置されたパイロットプラント

2014年にJICAの公募事業に申請し、JICA中小企業海外展開支援事業(普及・実証事業)を実施しました。セブ市所管の廃棄物処分場内にパイロットプラントを設置し、廃プラスチックからフラフ燃料を製造し、リサイクルルートを構築するものです。普及・実証事業では、セブ市役所やバランガイ(フィリピンの最小行政単位)との連携のもと、複数の商業施設から分別された廃プラスチックを受け入れることで、燃料として十分なカロリーを出すことのできるフラフ燃料の製造が可能であることを確認しました。さらに、製造したフラフ燃料の販路を開拓し、現地のセメント工場での使用が可能であることが確認されました。

パイロットプラントの作業員にはウェストピッカー(※)を雇用しました。作業員の労働環境は、従来よりも安全かつ衛生的なものになりました。普及・事業の完了後に、パイロットプラントは、セブ市に移管されています。

※廃棄物処分場において有価物を集める人々のこと

燃えやすいように粉砕された廃プラスチック

(4)本格事業開始

グーンは、JICA案件化調査や普及・実証事業の実績を活かして、商業ベースでの事業化に着手しました。事業資金の一部には、環境省の「途上国向け低炭素技術イノベーション創出事業」の補助金を活用しています。2017年に廃プラスチックリサイクル工場がコンソラシオン市内に竣工しました。

グーンが製造したフラフ燃料は、現地の大手セメント会社に供給されています。2019年4月に大手セメント会社との交渉が成立し、横浜市内で契約手続きが行われました。

この契約によって、フラフ燃料が現地で安定的に利用されることになり、廃プラスチックの埋立量削減や、廃プラスチックによる海洋汚染の防止、さらに、地球温暖化対策に貢献できるものと考えられています。

現地セメント会社との調印式の様子(2019年4月、グーンみなとオフィスにて)

(5)都市ごみの受入と社会的効果

マンダウエ市は2018年に、都市ごみ(地方自治体が管理する主に家庭等からのごみ)を4品目(Biodegradable、Recyclable、Residual Waste、Special Waste)による分別回収について、条例制定しました。同市では、Residual Wasteを処理する市営の最終処分場を運営していましたが、環境上の理由から閉鎖することとなり、Residual Wasteの排出削減が急務になっていました。マンダウエ市の廃棄物管理施策の見直しは、グーンが都市ごみのリサイクルを検討する契機になりました。これは、グーンのプラントの処理能力をフル活用しながら、現地の環境問題への貢献を目的とした取組です。なお、グーンは、横浜市内では産業系廃棄物を扱っており、家庭から排出されるごみは扱っていません。したがって、グーンにとって、都市ごみを扱うことは社内でもその成否について慎重な議論が沸き起こるほどの大きなチャレンジでした。

マンダウエ市が取り組んでいる「Residual」品目の細目化

グーンとマンダウエ市間の事業提携に向けた協議の契機は、2018年3月に横浜市とメトロセブ開発調整委員会(MCDCB:Metro Cebu Development and Coordinating Board)の共催によるビジネスマッチングセミナーでした。このセミナーでは、マンダウエ市、横浜市資源循環局、グーン等が出席し、マンダウエ市の課題、横浜市の分別収集制度の仕組み、グーンのリサイクル技術等について闊達な議論が行われました。

グーンのリサイクルプラントの紹介
横浜市資源循環局から横浜市の廃棄物管理施策を紹介

事業提携に向けた協議が進んだ背景には、マンダウエ市は環境都市としての意識が高く先鋭的に分別回収を実践してきたことや、市営の廃棄物最終処分場閉鎖の方針が決まっていたため代替処理方法の確立が急務だったこと、さらには、横浜市の長期にわたる都市間協力にマンダウエ市長・副市長が携わってきた経緯から横浜市やグーンの技術に対する認識度や信頼度が高かったこと、等が挙げられます。しかしながら、マンダウエ市にとっての外国企業を事業提携先として選定することや、限られた市予算の中での処分費の合意、公民の役割分担等、ひとつひとつの条件を確定していく交渉が日々重ねられました。また、小さいエリアを対象にした社会実験として都市ごみを受け入れて、リサイクル処理の実証確認も同時に行われました。

この協議が実り、2018年8月にグーンプラントでの都市ごみ受入がマンダウエ市議会通常議会で承認され、9月に契約締結に至りました。

2018年9月より、Residual Wasteをさらに細分化した分別回収が始まり、全27バランガイのうち10バランガイからの都市ごみの受入れを開始しました。当初は受入れた量のうち約65%をリサイクルすることができました。残り約35%については、食品残渣や石、泥等が混入しており、燃料化ができず再びマンダウエ市が引き取って民間の処分場に搬入することが必要となりました。マンダウエ市にとってはこの混入物の処理にも運搬費用が発生します。そこで、プラントに持ち込む前の分別回収の徹底が課題となりました。

プラントに搬入されたマンダウエ市からの都市ごみ

マンダウエ市民への分別回収にかかる啓蒙活動や、バランガイ職員による混入物の仕分け作業等により、2019年1月に27バランガイに収集対象を広げ、2019年には廃プラスチック類1,559t/年を受入れ、約86%にあたる1,334t/年がフラフ燃料にリサイクルされました。

2019年2月に、横浜市国際局とグーンがマンダウエ市固形廃棄物委員会に招聘され、横浜市の市民向けごみ分別アプリ「ミーオとイーオ」のデモンストレーションをしました。その後も、ビデオ会議などを通じて、本市資源循環局が培った分別啓発資料やマンダウエ市が抱える医療系廃棄物処理の課題対策等について議論を重ねています。このようなマンダウエ市の廃棄物管理施策への活動が評価され、フィリピン支店長の小西さんは、2019年7月にマンダウエ市の固形廃棄物管理委員会の委員に選出されました。同委員会にて分別回収制度の仕組みの向上策について、リサイクル事業者の立場から、横浜市内での事業経験を基に積極的に情報提供しています。

マンダウエ市から搬入される資源のリサイクル率の推移

(6)更なる都市廃棄物のリサイクルに向けて

グーンは、リサイクルの仕組みを周辺自治体、さらにはメトロセブ全域にまで拡大展開することを視野に入れて、廃棄物課題の解決を目指しています。

2020年2月の「メトロセブ都市開発フォーラム」(横浜市とMCDCBの共催)では、リサイクルプラントの実績を紹介し、その後のプラント見学会には多くの行政担当者が参加しました。リサイクルの仕組みが周辺自治体に拡大することが期待されています。

マンダウエ市とグーンとの連携実績は、国際機関からも注目を集めています。2018年10月には、第11回アジア3R自治体間ネットワーク会合(一般財団法人日本環境衛生センター)にマンダウエ市が招聘され、ごみ分別・リサイクルの取組が紹介されました。また、2019年12月にアジア開発銀行研究所が開催した本邦研修にも、マンダウエ市が招聘され、同市の取組は先行事例として高い関心を受けました。

アジア開発銀行研究所の本邦研修の様子

(7)本事業の効果

グーンの事業は、廃プラスチックを燃料にするリサイクル循環を構築しました。いまやメトロセブの循環産業の重要な役割を担っています。今後も、①分別収集の実施、②廃棄物の適正処理、③埋め立て処分量の削減といった社会的効果、ひいては海洋プラスチック問題の抑制にも繋がることが期待されています。同時に、地球温暖化対策にも貢献します。当工場でフラフ燃料を50t/日製造しセメント会社で使用した場合、CO2排出削減量は約11,300トン/年と試算できます。CO2排出削減量を軽油使用量に換算すると4,170キロリットルになり、タンクローリー209台分の量に相当します。

グーンの事業は、現地の雇用創出にもつながっています。管理者や作業員を地域から雇用し育成しています。また、グーンの地域との積極的な交流は、市民の環境意識の向上にも貢献しています。

セブ日本人会主催の盆踊り祭りでのごみ分別啓発活動の様子

5 活用した公的支援制度等

グーンは、横浜市とメトロセブとの都市間連携の枠組みのもとで、JICAや環境省等の公的支援制度を活用して事業化を進めてきました。

事業化までのステップ
支援制度等事業名実施者調査報告書等
H24年度外務省委託費事業(案件化調査)資源循環推進事業創出に関する調査萬世リサイクルシステムズ株式会社(株式会社グーン)・カーボンフリーコンサルティング株式会社 共同企業体
H25年度JICA中小企業海外展開支援事業(普及・実証事業)  セブ市資源循環推進事業創出に関する普及・実証事業萬世リサイクルシステムズ株式会社(株式会社グーン)報告書  
環境省途上国イノベーション創出事業セブ市都市圏における廃プラスチックのリサイクル事業萬世リサイクルシステムズ株式会社(株式会社グーン)  事業概要書  

6 参考リンク

外務省

外務省が作成した本邦企業の途上国における海洋プラスチック問題の貢献を紹介する動画に、グーンのメトロセブの取組が紹介されました。

第11回アジア3R自治体間ネットワーク会合(一般財団法人 日本環境衛生センター)