

1 事業概要
公共下水処理場や民間工場等への汚泥脱水装置の納入
2 国・地域(都市等)
フィリピン(セブ都市圏、バギオ市他)
3 SDGsへの貢献
4 事業化の道のりと実績
(1)現地課題と進出経緯
フィリピン・セブには下水道が整備されていません。家庭や事業所のトイレ等から排出される汚泥は、一度、住宅内に設置されたセプティックタンク(腐敗槽:トイレからの汚水を一時貯留するコンクリート製の貯留槽)に溜められます。また、住宅によっては十分に引き抜かれずに雨水と一緒に河川に流れ込んだり、そもそもセプティックタンクが整備されずに直接河川に流れこむ状況も見られます。また、数年に一度、バキュームカーで引き抜かれることがありますが、引きぬかれても、腐敗槽汚泥(セプテイジ)は適切に処理されずに廃棄物処分場等にそのまま投棄されています。このことにより、河川や地下水が汚染され、健康被害の発生の原因になるなどの大きな都市問題になっています。


横浜市は、2012年3月にセブ市と「セブ市の持続可能な都市開発に向けた技術協力に関する覚書」を交わし、同年7月に市内中小企業のアムコン株式会社(横浜水ビジネス協議会会員企業※)を含む21社とともに、セブ市の都市課題解決支援を目的とした、合同調査を実施しました。
アムコン株式会社(以下、アムコン)は、ここで得た現地ニーズ情報やセブ市当局とのネットワークを活用して、同社の持つ汚泥脱水装置の技術について、平成24年度から、 JICA中小企業海外展開支援事業(案件化調査)、平成25年度から普及・実証事業を実施しました。
※横浜水ビジネス協議会:Y-PORT事業の一環として、新興国などにおける水環境に関する課題解決や、市内企業等のビジネスチャンスの拡大を通じて、市内経済の活性化等を目指す横浜市・企業・団体等で構成される協議会
(2)普及・実証事業(パイロットプラントによる実証)
JICA普及・実証事業において、アムコンの脱水装置は、腐敗槽汚泥を効率的に固形分と水分に分離させることができ、かつ目詰まりしにくいという特徴から、バキュームカーで引き抜かれた腐敗槽汚泥の処理過程において、大変効果的であることが確認されました。横浜市も、この普及・実証事業において、セブ市で汚泥処理に関する条例が施行されるように横浜市内での浄化槽からの引き抜き処理に関する制度をセブ市職員に説明したり、横浜市内の施設運営についての視察を受け入れるなど、セブ市の担当職員への技術協力を行いました。
このような、普及・実証事業では、フィリピン国政府や地方自治体、民間企業を対象にした技術セミナーを開催しました。このセミナー等により、同社の技術はセブ市にとどまらず、フィリピン国公共事業・道路省や国内他自治体、食品工場等の民間事業体等からも高い関心が寄せられる契機となりました。
(3)普及・実証事業の効果と事業化実績
セブ市におけるJICA普及・実証事業の結果、同社の技術はフィリピン国公共事業・道路省から高い評価を得ました。これにより、フィリピンで初めての公共下水処理場への納入が実現しました。バギオ市の下水処理場やタルラック市の汚泥処理施設の2つの公共施設への納品につながったことは、同社製品の海外販路拡大における大きな成果でした。バギオ市下水処理場では、①汚泥処理(自然乾燥)時間の短縮(2か月程かけて乾燥させ販売用の堆肥を準備していた作業時間が大幅に短縮できること)、②場内衛生面の改善(汚泥が場内搬入された後、悪臭やハエ等の発生が大幅に低減される)等といった事業効果が報告されています。
また、セブ市での普及・実証事業は、民間施設への普及効果ももたらしました。現地の食品工場や化学系企業、電子部品を扱うメーカー、自動車メーカーを始めとする、幅広い業種の民間工場へも導入が進んでいます。
近年の民間施設への普及事例としては、世界的な飲料会社のフィリピン国内8工場における既存施設の置き換えとしての採用実績があります。これら工場では、遠心脱水機が採用されていましたが、機内で汚泥を高速回転させる仕組みであるため、消費電力量が大きく電力料金が高いフィリピンでは運転コストに大きな影響を与えていました。アムコンが提案する汚泥脱水機は、リングが毎分2~4回転でゆっくり動作する仕組みのため電力消費量が小さい特長があります。また、操作が簡単で日常のメンテナンス項目が少ないことも特長です。オペレーターに求められる毎日の作業は、高分子凝集剤の補充と脱水ケーキコンテナの入替え作業のみとなり、脱水機の運転中に常時張り付くことが不要になりました。これらの効果によって運転コストの削減に大きく貢献しています。
アムコンの汚泥脱水技術は、フィリピンの水環境の向上は勿論のこと、電力消費量の削減によって温室効果ガスの排出削減にも貢献しています。今後も、汚泥排出量が多いホテル業界等への更なる普及展開が期待されています。









5 本事業で活用した公的支援制度等
支援制度等 | 事業名 | 実施者 | 調査報告書等 |
---|---|---|---|
H24年度外務省委託費事業(途上国政府への普及事業) | 浄化槽汚泥の脱水装置の普及事業 | アムコン株式会社・株式会社エックス都市研究所 共同企業体 | 報告書 |
H25 年度JICA第1回民間提案型普及・実証事業 | セブ市浄化槽汚泥の脱水装置の普及・実証事業 | アムコン株式会社 | 報告書 |
6 参考外部リンク
- JICA mundi 2020年6月号:自治体と企業がサポート! 都市整備の経験を汚水処理に生かす フィリピン